野球肘とは?原因や症状、治し方や疑問アレコレにお答えします
カテゴリー:肩・肘・手首の痛み
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野球肘は野球をする習慣がある人に、特に気を付けておきたい肘の障害のひとつです。
ここでは野球肘の原因や症状、起きるメカニズムや主な治療法などについてわかりやすくお伝えしていきたいと思います。
野球時の他にテニス肘やゴルフ肘、最近では「スマホ肘」という名称も出てきました。
詳しくはこちらをご覧ください。
→ゴルフ肘のテーピングの貼り方4選!うまく巻くコツは「少しの張り」
→スマホ肘って何?セルフチェックやテーピングの仕方、ストレッチを紹介!
Contents
野球肘とは
野球肘について、原因や症状、起きるメカニズムやあまり知られていない種類を見ていきましょう。
原因
野球肘は野球の投球動作の過度な繰り返しやオーバーユース(使い過ぎ)によって、肘に強い負荷がかかり続けることが原因で起こるスポーツ障害です。
また成長過程にある小中学生では、脆い軟骨である成長軟骨が多いため、繰り返しの投球動作やオーバーユースによって大人よりも野球肘が起こりやすい傾向にあります。
症状
野球肘には、
- 投球時の肘の痛み
- 投球後の肘の痛み
などの症状があり、状態によっては肘の曲げ伸ばしが上手くできなかったり、肘が急に伸ばせなくなるケースも。
起きるメカニズム
野球肘が起こるメカニズムは、野球の投球時に上腕部分(肩から肘)と前腕部分(肘から手首)に逆方向のねじれ(写真左)や圧迫力(写真右)が加わって起こります。
成長期にある少年期には、肘の骨である尺骨の成長軟骨という部分が著しいダメージを受けることも。
成長期を過ぎた高校生の野球肘の場合は、肘への強い負荷によって、骨と骨をつなぐ靱帯や骨が損傷するケースもあります。
種類
野球肘の種類には、
- 肘の内側部分に生じる「内側型野球肘」
- 肘の外側部分に生じる「外側型野球肘」
- 肘の後ろ側に生じる「後方型野球肘」
の三種類があります。
はじめに、内側型野球肘から見ていきましょう。
【内側側副靱帯損傷】
内側側副靱帯損傷は、肘の内側の靱帯が繰り返し過度に引っ張られて靭帯が損傷した障害です。
内側側副靱帯損傷(内側型野球肘)は、
- 野球肘の中でもっとも発生率が高い
- 10人に1~3人程度に生じやすい
などの特徴があり、高校生以上の重度の損傷は手術が必要になるでしょう。
靱帯損傷について詳しくはこちらをご覧ください。
→靭帯損傷とは?症状や治療法、早く良くなる方法を解説します。
【上腕骨内側上顆(ないそくじょうか)障害(リトルリーグ肘)】
肘の内側の出っ張り部分が痛くなる障害で、
- 身体が未発達
- 身体が硬い
などが原因で起こり、小学生に多い傾向です。
初期のうちは投球後数時間で痛みは治るものの、進行していくと痛みが消えずに残るようになります。
投球時に痛みは感じるものの、数時間で痛みもなくなるため早期発見が難しい障害でしょう。
野球肘の他の肘の痛みについてはこちらをご覧ください。
→肘の内側・外側の痛みの原因と治療法とは?お勧めのサポーターをご紹介
【上腕骨内側上顆裂離(れつり)】
痛い場所はリトルリーグ肘と同じ場所ですが、痛み方に特徴があります。
それは「投げた瞬間に痛みを感じる」ことです。
「裂離」とは骨が剥がれることを意味していて、それは「骨折の状態」ということです。
投げる動作や肘の曲げ伸ばしはもちろん、
- 押すと痛い
- 熱感や腫れ
などの症状を感じるでしょう。
「裂離骨折」は剥離骨折とも言います。
剥離骨折について詳しくはこちらをご覧ください。
→足首の剥離骨折で行うリハビリとは?早く治す方法と疑問にお答えします
→剥離骨折を早く治す方法をご紹介!大切なのは適切な固定と適度な刺激!
【上腕骨内側上顆骨端線閉鎖不全(こったんせんへいさふぜん)】
上腕骨内側上顆の成長軟骨が投球動作の繰り返しで、本来は閉じる(癒合:骨がくっ付く)ものが閉じない状態のことをいいます。
投球動作を数ヶ月ほど中止すると癒合することがほとんどですが、中には癒合しないケースもあります。
【上腕骨内側上顆骨端線離開】
上腕骨内側上顆骨端線閉鎖不全と場所は同じで、感じる症状は似ていますが、大きく違うのは「一度の投球動作で痛みを感じる」ことです。
内側上顆についている腱が投球時に成長軟骨を剥がしてしまい、痛みだけでなく炎症や熱感などの症状も同時に感じるでしょう。
【尺骨神経障害】
この障害は子供よりも長く野球を続けている大人に発症するもので、肘の変形や筋肉の発達により肘の内側にある尺骨神経を圧迫するために起きる障害です。
投球を続けていると小指や薬指に痺れを感じ、ひどくなると痺れが強くなって投げられなくなることもあります。
投球の中止はもちろん、フォームチェックや改善、筋肉系のケアが必要でしょう。
次からは外側型野球肘について見ていきましょう。
【離脱性骨軟骨炎】
離脱性骨軟骨炎は、100人に1~3人程度で発生するまれな野球肘となり、初期には痛みがあまり出ないため、本人やまわりも気付けないケースが少なくありません。
そして野球肘としては最も重症になる障害でもあります。
本人も自覚症状がなく気付かないため、痛みが出始めて初めて先生に見てもらうケースがとても多いです。
早期に気付けば投球動作の中止でことなきを得ますが、末期になると肘の曲げ伸ばし制限や変形が残ってしまうことも。
では「どう防げばいいのか?」という疑問に関しては、成長と同時に肘の状態をエコーで観察する必要があるでしょう。
ですが、実際には現実的な方法ではないかもしれません。
【滑膜ひだ障害】
投球動作で肘を伸ばしたときに肘の外後方にある「ひだ」が骨に挟まってしまう障害です。
症状改善には、投球フォームの改善や筋肉系へのアプローチが必要にあります。
関節の動きを助ける「滑膜」そのほか、衝撃吸収や動きを滑らかにする「滑液」という組織もあり、詳しくはこちらをご覧ください。
→滑液包炎とは?症状や原因、起きやすい部位のなどの疑問にお答えします
ではここからは後方型野球肘について見ていきましょう。
【肘頭骨端線閉鎖不全症】
肘の後ろは尺骨という骨の一部で、投球動作で肘を伸ばすときに使われる上腕三頭筋(写真:緑丸)の腱が、尺骨の骨端線を広げてしまうために起こる野球肘です。
投球動作により牽引力が加わり続けることで、本来なら成長と共にくっ付くべき部分がくっ付かずに、離れたままにより痛みを生じます。
痛みを感じたら投球は中止し、フォームの改善や身体の柔軟性、そして筋肉へのケアを行いましょう。
肘頭に関する障害について詳しくはこちら。
→肘頭骨折とは?概要や原因、治療法やリハビリ内容などの疑問にお答えします
【肘頭疲労骨折】
投球時に肘を伸ばす動作の繰り返しで、骨同士がぶつかり金属疲労のように骨が損傷してしまう肘頭骨折。
骨端線が癒合した年代、中学から高校以降で起こる傾向です。
投球を中止し、フォームの改善や筋肉へのケアを行うと同時に、練習の質と量も改善できると理想的でしょう。
疲労骨折について詳しくはこちらをご覧ください。
→腰の疲労骨折(腰椎分離症)の原因・症状は?セルフチェックと予防法を解説
→疲労骨折の予防法と対処法、早期の症状改善のためにできることを徹底解説!
【肘頭棘骨折】
身体というのは繰り返しの刺激によりその部分を守ろうとして、通常では無い組織が作られることもあります。
その一つが肘にできる「棘(きょく)」という棘(とげ)です。
投球動作の繰り返しにより「骨棘(こつきょく)」が作られると、普通では動作の支障にはならない動作でも骨棘に刺激が加わり、最終的にはその骨棘が骨折してしまう野球肘になります。
投球の中止はもちろん、フォームの改善や筋肉へのケアなどを行いましょう。
【後方インピンジメント】
投球動作で肘が伸びたときに、肘の後方で骨同士に軟部組織が挟まれて痛みを感じる野球肘です。
上腕三頭筋の筋力強化やフォームの改善、柔軟性の向上に努めましょう。
インピンジメントは方でも起きる障害です。
詳しくはこちらをご覧ください。
→インピンジメント症候群の原因と診断や治療法、対処法も詳しく解説!
野球肘を早く治す方法
野球肘を早く治すためには、適切な応急処置や固定、リハビリなどの他にも、運動器カテーテルという専門的な治療を受けることも良いでしょう。
運動器カテーテル治療は、野球肘による痛みが長引く原因となる微細な病的新生血管(モヤモヤ血管という)に直接作用することができます。
野球肘のカテーテル治療は、腱や筋肉、靱帯などを傷つけることなく血管の中からの治療ができるため、身体にやさしい治療であることが注目されています。
野球肘の治し方
野球肘の治し方について、
- 手術
- 接、整骨院
- 自分で
できる方法をそれぞれ見ていきましょう。
手術
手術が適応になるケースは
- 骨の癒合がしにくい、または癒合に遅れがある
- 軟骨や靱帯の損傷がある
など、保存療法では組織の修復が難しい場合に手術が検討されます。
痛みを我慢して投球を続けると治るまでの期間は長くなるだけでなく、安静だけで住む症状も手術が必要になってしまうなど、心理的負担も大きくなるでしょう。
接・整骨院で
一般的に接・整骨院での施術というのは、電気や手技、テーピング、リハビリなどの施術を行います。
どのような症状で通院すべきなのかというと
- 感じている痛みを軽減してほしい
- 固くなった筋肉を緩めてほしい
- 全身の調整をしてほしい
- 身体の使い方を見てほしい
- 肘への負担を軽減する動きを教えてほしい
- 肘周辺の正しい筋力トレーニングを教えてほしい
などの場合です。
レントゲンや超音波(エコー)にて患部周辺に異常が無い場合には、アイシングや湿布を行っても症状に変化はありません。
大切なのは【患部の状態にあった最適な施術が行えるかどうか】です。
患部に異常がなければ患者さん全体を見てくれる接・整骨院の先生に身体を預けてみてはいかがでしょか。
自分で
自分で野球肘を治す第一歩は【感じた肘の痛みを無視しない】です。
野球肘の内側障害の研究によると、発症から1週間以内に治療を開始した方が治りやすいとのデータが報告されています。
野球肘は間違った方法に気付けずに自分で治そうとすると、悪化させてしまうリスクがあるため、異状に気付いた時点で早めに治療を受けるようにしましょう。
野球肘のリハビリ
野球肘のリハビリを見ていきましょう。
野球肘は、
- 親指を外側に向けて、肘を伸ばす
- 小指を肩に付けて、肘を曲げる
- 投球動作で一瞬強く力が入る時の痛み(肘への捻転力)
といった際に制限や痛みがみられます。
そのため野球肘のリハビリでは、この可動域制限を改善する
- 親指とその他の指を伸ばしながら、肘を伸ばすストレッチ
だったり、
- 肘の筋力強化を図るチューブを用いた屈曲、伸展トレーニング
などを行う必要があるでしょう。
野球肘の疑問アレコレ
続いては野球肘の疑問アレコレにわかりやすくお答えしていきたいと思います。
オススメのストレッチは?
野球肘では、上腕骨内側上顆(じょうわんこつないそくじょうか)に付着している筋肉を伸ばすと、痛みの緩和と予防になるでしょう。
- 手のひらを上に向けて、腕を前に伸ばす
- 指先を下に引っ張りながら、内側に腕全体を捻る
- 気持ちよさを感じる間行う
普通のストレッチでは指を下に向けて行う方法がほとんどですが、腕全体を内側に捻るとさらに効果的にストレッチが行えます。
捻り過ぎると手関節が痛くなりますので、調節して行いましょう。
そして、ストレッチは気持ちよさを感じながら行うとさらに筋肉は緩みます。
詳しくはこちらをご覧ください。
→間違ったストレッチをしないために、知っておくべきこととは?
サポーターは有効?
野球肘に限らず、日常生活でも痛みを感じない工夫は必要ですので、サポーターで動きの制限やサポートをしておくと良いでしょう。
普段から痛みを感じずに肘を使えるのは、治る過程においてとても大切です。
痛みを感じながら生活をしてしまうと脳が痛みを覚え、動きにもスムーズさが欠けてしまいます。
すると、いざ動かそうとしたときにうまく身体が使えなくなってしまうのです。
そうならないためにも投球時以外でも痛みを感じないようにサポーターは是非とも使うことをオススメします。
サポーターについてはこちらをご覧ください。
野球肘を治すトレーニングはあるの
「野球肘を治すトレーニング」というよりも「野球肘にならないトレーニング」と言った方が適切です。
そもそも野球肘の原因は
- 投げすぎ
- フォームの問題
- 柔軟性の低下
です。
根本を解決しないでトレーニングを行うとさらに筋肉は固くなり、柔軟性も低下してしまうでしょう。
もちろん適切な処置を行いながらトレーニングを行うと理想的です。
肘に不安を抱えている場合には、先生に相談しながら行いましょう。
では予防のトレーニングをご紹介します。
方法はカンタン。
- ダンベルを持ち、肘を膝あたりに置く
- 手首を返してダンベルを持ち上げる
手首から肘につく筋肉の強化です。
このトレーニングを行なった後、投球をしてどのような感覚なのかを必ず確かめてください。
行なった後【投球しやすい】場合には、同じ回数を週に2回程度を行います。
行なった後【フォームが変わってしまう、投げにくい】場合には、回数を減らして、週1回行なってみましょう。
疲れたらきちんとリカバリーも行う習慣を身につけてくださいね。
筋力をつけることで解消できるルーズショルダーについてもご覧ください。
→ルーズショルダーって何?原因と症状、筋トレやテーピングを詳しく解説!
安静期間はどのくらい?
野球肘の安静期間は原因によって様々です。
画像にて組織に異状のない軽度なものでは投球動作をいったん停止し、約2~4週間程度での復帰が見込めますが、手術が必要なケースでは復帰までに1年ほどかかるものもあります。
マッサージ方法を教えて!
野球肘に有効なマッサージをご紹介します。
手首を返す筋肉を緩めると肘への負担軽減となりますので、ぜひとも行なってみてください。
写真の緑丸を指で押して見てください。
固いところがあるでしょう。
その固いところを押したまま手首を上・下に動かします。
すると押している筋肉が硬くなったり、柔らかくなったりしますので、繰り返し何度も行うと次第に筋肉が緩んでいくでしょう。
押している場所が緩んだら、押す箇所を変えて同じように行います。
筋肉が緩むと肘の動きも軽くなっているでしょう。
関節ねずみってナニ?
関節ねずみは、上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(じょうわんこつしょうとうりだんせいこつなんこつえん)の遊離期に、剥がれ落ちた骨軟骨片や骨棘が欠け落ちる、関節内遊離体の総称のことを言います。
野球肘の関節ねずみは、
- 急激な痛みを感じる
- 肘が動かせなくなる(ロッキング)
などの症状があり、野球・体操などのスポーツシーンで起こりやすい傾向にあります。
関節ねずみについて詳しくはこちらをご覧ください。
→関節ねずみの原因・症状・治療方法とは?【柔道整復師が解説します】
【まとめ】野球肘について
本記事では野球肘の原因や症状、疑問アレコレなどについてお伝えしてきました。
野球肘は
- 正しい投球動作、フォーム
- 練習量と質
- 運動前後のケア
で予防は可能と、私は現場で強く感じています。
そして、肘に少しでも違和感や痛みを感じたら、我慢せずに適切な対処をしていただければと思います。