肩関節脱臼について。状態や原因、整復方法や治療法を解説します
カテゴリー:肩・肘・手首の痛み
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肩関節の脱臼はスポーツや転倒などが原因で生じやすく、脱臼の中でも最も起きやすい部位の脱臼です。
今回の記事では、肩関節脱臼がどのような状態なのか、原因や症状、整復や治療法について詳しくお伝えしてみたいと思います。
脱臼全般についてはこちらをご覧ください。
→脱臼とは?状態や原因、起きやすい部位や治療法について解説します
Contents
肩関節脱臼について
はじめに肩関節脱臼について、状態や原因、症状や分類を見ていきましょう。
状態
肩関節脱臼の状態とは【肩関節を構成する上腕骨(腕の骨)と肩甲骨の位置関係が逸脱している】ものです。
肩関節脱臼が起こると同時に
- 関節を覆っている関節包(かんせつほう)
- 靱帯
- まわりの筋肉
などの軟部組織も損傷しています。
肩関節脱臼を生じると、ときには肩甲骨や上腕骨の骨折を併発することも珍しくありません。
原因
肩関節脱臼が生じる原因には、腕や肩に大きな外力が伝わり、肩関節の持つ耐久力に耐えきれずに脱臼が起きてしまいます。
例としては
- ラグビーや柔道、ハンドボールなどのコンタクトスポーツ
- 転倒や腕に地面をついて肩関節をかばうような無理な体勢になった時
などがあります。
では「なぜ肩関節脱臼が脱臼の中でも最も起きやすいのか?」に対してはこちらの項をご覧ください。
加えて肩関節脱臼の特徴としては、繰り返し生じることが多く、習慣性・反復性脱臼では寝返りやくしゃみ、ものを取ろうと手伸ばしただけでも脱してしまうリスクがあります。
症状
肩関節脱臼が生じると、
- 患部の変形(肩が尖って見える)
- 患部の痛み
- 肩関節(腕)が脱臼した角度のまま動かせない
- 動かされる際(整復時)に痛み
- 肩の高さが左右で違う(腕がダランと下がっている)
などの症状が出ます。
肩関節脱臼はその他にも、肩や腕、指にまで痛みやしびれ、感覚の低下などが生じることも。
分類
肩関節脱臼には、脱臼した方向性によって4つの分類に分かれていて、それぞれ起こる原因や状態、症状が違います。
肩関節脱臼の4つの分類について詳しく見ていきますが、それぞれ知識程度にお見知り置きください。
【前方脱臼】
肩関節脱臼の前方脱臼とは、
- スポーツや事故などで、手をついて発生する
- 上腕骨頭が肩甲骨関節窩の前方に逸脱した状態
- 肩関節脱臼の90%以上が前方脱臼である
- 烏口下(うこうか)脱臼、鎖骨下(さこつか)脱臼、胸郭内(きょうかくない)脱臼にさらに分けられている
などが当てはまり、ほとんどの肩関節脱臼は、前方脱臼の烏口下脱臼になります。
【後方脱臼】
肩関節脱臼の後方脱臼とは、
- 上腕骨頭が肩甲骨関節窩の後方にずれた状態
- 肩の前側からの外力や手を前に伸ばした状態で前から外力を受けて起こる
- 発生は稀で、脱臼だと判断しずらい
- 肩峰下(けんぽうか)脱臼、棘下(きょくか)脱臼にさらに分かれている
などに分けられます。
【上方脱臼】
肩関節脱臼の上方脱臼は、
- 手を下げた状態で前上方への強い力によって骨頭が関節窩上方に脱臼する
- 腱板や上腕二頭筋腱、神経や血管などの南部組織の損傷を伴う
- 肩峰や鎖骨、烏口突起(うこうとっき)、上腕骨大・小結節の骨折が生じる
- 軋轢(あつれき)音・強い痛み・内出血が見られる
- 烏口突起上(うこうとっきじょう)脱臼と言われる
などの原因・症状となり、このタイプはほとんど起きない脱臼となっています。
骨折の見分け方についてはこちらをご覧ください。
→打撲と骨折の見分け方とは?見た目や症状の違い、部位別の見分け方をご紹介
→捻挫と骨折の見分け方は?それぞれの対処法と疑問にお答えします
【下方(直立)脱臼】
肩関節脱臼の下方(直立)脱臼は、
- 手を上に上げた状態での上から外力を受けた時に起きる
- 上腕骨頸部が肩峰(けんぽう)にぶつかり、骨頭が下方関節包を損傷して生じる
- 腋窩(えきか)脱臼、関節窩(かんせつか)脱臼にさらに分かれる
- 腋窩(えきかか)脱臼では、頭の上に手を置いて来院する
などの原因や症状があり、こちらも非常にまれな脱臼となります。
肩関節脱臼の整復方法
肩関節脱臼の整復法もご紹介しますが、こちらも知識程度にご覧ください。
- ゼロポジション整復:上腕骨を手先に向かって牽引(けんいん)を加えた整復法のこと
- ヒポクラテス法整復:仰向けに寝かせた状態から、脱臼した腕を取り、脇の下に術者(整復を行う人)の足を入れて固定し、ゆっくりと腕の牽引を行う整復法
- コッヘル法:上腕を指先方向に5秒程度末梢牽引し、その後ゆっくりと降ろして側胸壁に接近させる方法
などが代表的な方法です。
整復方法は肩関節脱臼の分類や状態により適した種類が選択されます。
整復方法は上記の方法以外にもそれぞれの先生独自の方法があり、痛みを伴わない整復法も存在していて、ご紹介した一般的な整復法はドクターが行う方法と言っても良いでしょう。
脱臼の整復経験が豊富な接骨院の先生は、怖さも痛みも伴わずに整復できる先生もいます。
(もちろんドクターもいらっしゃいます)
口コミやご紹介などで調べてから、またはあらかじめそのような先生が身近にいるかどうかをリサーチしておくことを強くお勧めします。
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肩関節脱臼の治療法
肩関節脱臼の治療では、骨の位置をもとに戻す整復を行い、その後、腕の固定やリハビリで回復を図る保存療法、または手術療法が選択されるでしょう。
肩関節脱臼の保存療法は、腕を固定し、乖離(かいり)した関節組織を圧着させ、同時にそのほかの組織の修復を待つのが治療法の主の目的となります。
ここでは肩関節脱臼の治療法について、固定する姿勢や期間を合わせて見ていきましょう。
固定肢位(姿勢)
最近の肩関節脱臼の固定姿勢は、腕を身体の側面につけて固定する方法(肩関節を外旋位で維持)が、損傷組織の修復に有効だとわかってきました。
専用の固定用具も出始めており、今後は腕を前に出した固定方法が主流になっていくでしょう。
これまでは三角巾で下記の写真のような固定が主流でしたが、この固定法では反復性・習慣性脱臼にかなりの確率で発生してしまうために、近年では固定法が変わってきたのです。
固定期間
肩関節脱臼は、整復後に損傷した関節包やそのほかの組織が修復するまで、およそ3~6週間程度の固定期間が目安となっています。
この時期に適切な固定姿勢と期間をしっかりと設けることで、再脱臼のリスクを抑えることが可能です。
リハビリメニュー
肩関節脱臼のリハビリメニューには、
- 固定期間中からの肘関節の可動性を維持
- 固定が外れた後の肩関節まわりの筋力の回復
- 肩関節可動域の回復
- 肩関節を動かしたときの恐怖心の克服
が目的となります。
肘関節は固定が緩まない程度なら日常的に使うようにすると良いでしょう。
固定が外れたら落ちたしまった筋力の回復と、固定により固くなった関節の可動域を取り戻すリハビリが必要です。
そして、一度脱臼をしてしまうと「同じような動きをするとまた脱臼してしまうのでは?」という恐怖心も持ってしまうため、筋力トレーニングや可動域回復のリハビリと同時に恐怖心克服のためのリハビリも必要となります。
痛みがないからと言って、決して途中で通院・リハビリをやめないでください。
習慣性・反復性脱臼に陥ると余計な治療期間が増えるだけでなく、日常生活にも大きく支障をきたすでしょう。
詳しくはこちらをご覧ください。
→脱臼とは?状態や原因、起きやすい部位や治療法について解説します
肩関節脱臼が起きやすい理由
肩関節脱臼が起きやすい原因には
- 上腕骨(1)と肩甲骨(2)の構造が不安定
- 肩関節が各方向に広く動く
- 関節や靭帯に緩みがある
- 関節の固定を筋肉に依存(本来は靭帯が関節を固定している)
- 身体に対して突出しているため、外力を受けやすい
などが挙げられ、構造上のことだけでなく、肩関節の動きの良さや広さも同時に、脱臼の起きやすい原因としてあるのです。
肩関節脱臼の手術の入院期間
肩関節脱臼の手術後の入院期間は、3~7日程度が一般的です。
肩関節脱臼の手術・入院後は、三角巾などの道具で2週間程度の固定を行い、
- テニスや野球などの非接触スポーツの場合:4~5ヶ月程度
- ラグビーや格闘技などのコンタクトスポーツの場合:6ヶ月程度
の目安で復帰が可能となるでしょう。
焦らずに、地道に毎日のリハビリに励んでください。
【まとめ】肩関節脱臼について
本記事では肩関節脱臼の状態や原因、整復や治療法などについて解説してきました。
肩関節脱臼はスポーツや転倒、事故だけでなく、しっかりと治療をしないと些細な動きや衝撃でも生じ、再発しやすい傾向にあります。
肩関節脱臼になってしまったら固定などの応急処置をし、速やかに適切な整復や治療を受けて、そして先生の許可が降りるまで最後まで治療・リハビリを行いましょう。